【ブランドインタビュー】“感情をそっと包んでくれる香り”を生み出す、調香師 湖山友希さんのアートピースのような香りの世界。

【ブランドインタビュー】“感情をそっと包んでくれる香り”を生み出す、調香師 湖山友希さんのアートピースのような香りの世界。

寝具専用のリネンウォーターブランド「SODE」に込めた想いとは。

今回POPAP編集部は、調香師の湖山友希さんにインタビューを行いました。
普段周りの目を気にしてしまう人にぜひ使ってほしい「SODE」のプロダクト。
商品開発の裏側から今後の展望まで、じっくりお話を伺いました。

■SODEについて

SODEは、寝具専用のリネンウォーター。 
枕やベッドをほのかに香りづけ、穏やかな眠りにあなたを誘います。 
遠い記憶や、空想の果て。 情景からイメージされた3種の香り。
眠る前に、お好みの量をプッシュしてください。
IG:@sode_jp/

■「SODE」の調香師 湖山さんについて

- 湖山さんは「SODE」というブランドをお一人で運営されているんですか?

はい。SODEの運営をメインに、フリーで調香師をしています。
SODEのプロダクト自体は自分一人で作っているのですが、デザイナーさんやコピーライターさん、
カメラマンさんなど色々な方に手伝っていただきながら活動しています。

- 香りに興味を持ち、仕事にしようと思ったきっかけを教えてください。

私は元々化粧品が好きだったので、就活の時は化粧品関連の仕事に就くか迷っていたんです。
そんな中自己分析をしていて自分は昔からどこか香りというものに執着している部分があるな、と思いました。
例えば、小学6年生の時に親にDiorの香水を買ってもらったことが印象的な記憶として残っていたり、
自分がいいなと思ったもの、素敵だと思った人にはなんとなくいい匂いがした記憶があったりだとか。

自分は香りが好きなんだと気がついたときに、たまたま大学の先輩が香料会社から内定を貰ったということもあって、私も香料会社へ応募をし、卒業後は香料会社の研究員になりました。

■研究員を辞め、ブランドを始めるきっかけとなった出来事

- ブランドを立ち上げたきっかけを教えてください。

一番大きなきっかけだったのは、SODEを立ち上げる約1年前に、個人的に命と向き合った時期があったんです。

前職の研究員として働いていたときは、香料の物理的な研究をしていたため、実際の調香作業には関わっていませんでした。
研究をしている中で「調香のようなクリエイションがしたい」という気持ちもあったのですが、なかなか踏み出せなかったんです。

そんな中、3週間くらい自宅療養しなければならない期間ができました。
そこでこれからどうしていきたいのかと自分の将来を考えたときに、「ずっとやりたかったことをやろう」とブランドを立ち上げる決断をしました。

- 自分と向き合う時間ができたことで、思い切ってブランドをやってみようという気持ちになられたんですね。

そうですね。構想はなんとなく自分の中で考えてはいたのですが、当時はなかなかそこに踏み出す一歩がなかったんです。

■寝具専用のプロダクトに込められた想い

- なぜ肌につける香水ではなく、寝具専用のミストスプレーにされたのですか?

直接自分ではないものに香りをつけて、そこから自分の個性を発していくという、間接的な余白のある香りの使い方がすごく日本的で好きだなと感じています。

香水は西洋の文化というイメージが強いですが、日本にも実は「着物に香りを焚き染める」という香りの文化が昔からあります。
例えば、古今和歌集では外に咲いている梅の花の香りを嗅いで、「この花は誰の袖が触れたんだろう」という歌が歌われています。
その着物の袖を現代に置き換えてみた時に、人の感情が染み付いている布って私は寝具かな、と思ったんです。

香りで誰かを思い出したり、ずっと使っている香りを外泊した時に持っていって自分の家を思い出すことが出来るなど、そんなふうに使っていただけるものにしたいなと思い、寝具用の香りを作っています。

- もしかして「SODE」というブランド名は、その「袖」からきているんですか?

そうです!

■自分が共感できるものを作る

- 商品開発で大事にされていることはありますか?

「自分が一番共感できるものを作りたい」と思っています。
どこかに自分が経験してきたこと、自分が共感できるものがちゃんと入り込むようにしたいなと思っています。
私が好きだと思った香り、自分が表現したいと思った香りを作っているので、万人受けするかというとたぶんそうでもないのですが。笑

■湖山さんが商品を通して伝えたいこと

- 商品を通して伝えたいことを教えてください。

寝る場所を「自分が本当に好きなものと向き合えるところ」にしたいなと思っています。
寝る場所ってかなりパーソナルな空間なので、自分が純粋に好きなものを、他の人のことを考えずに使えるような空間ですよね。
香水は「今日はこの人に会うから、こう思われたいからこれをつけていこう」とか、外のことを考えながら選んだり、自分を表すために使われることが多いと思っています。

どうしても普段はまわりの意見やまわりの目を気にしてしまう方も、この商品を使っているときはそういうことを考えなくてもいい時間だよ、ということを感じてもらえたらと思っています。

- ちなみに、普通の香水と寝具用では持続時間は変わりますか?

はい。通常だとリネン用は香水と比べて持続時間は短いのですが、最近はリネン用でも持続するように作られているものもあります。
ただ、私は「朝になったらそこまで昨日のことは覚えていない」みたいな感覚のものにしたいなと思ったので、香水に比べてかなり濃度を薄くしています。

■「SODE」の世界観が作られるまで

- インスタグラムを拝見していて、お写真がすてきだなと思いました!
統一感もあってすっきりして見えますが、なにか意識されていることはありますか?

それほど意識的に投稿しているわけではないのですが、わたしがSODEの商品について思っていることや、実際に自分が使っているような場面を切り抜いており、私が撮ったものと写真家さんに撮っていただいたものを半分ずつ投稿しています。

あとはお花が好きで、商品の香りを嗅いだ時にイメージとして思い浮かんだお花と一緒に写真を撮ることもあります。

湖山さんが撮ったお写真

■湖山さんが活動している中で感じること

- ブランドをやっていてよかったと思う瞬間を教えてください。

私の作る香りが誰かの生活の一部になっていたり、思い入れの一つになっていることが嬉しいです。

純粋に「SODE」の香りを好きだと思ってくださって、ご自身の香りとしてリピートしてくださる方もいらっしゃって。もともと商品を作る際に、商品が誰かの特別なものになってほしい、という想いがあったのですごく嬉しいですね。

あとはブランドを始めていなかったら出会えなかった人が沢山います。
会社にいた頃に比べて知り合う人の幅が広くなったこともすごく嬉しいです。

- お一人でブランドをされていて大変なことはありますか?

すごく大変という訳ではないのですが、完全に一人でやっていると、調香以外の細々とした事務作業にどうしても時間が取られてしまうことですね…。

■SODEの今後について

- これからの展望を教えてください。

個人でやりたいこととしては、香りを作るといったクリエイションが好きなので、
「商品ラインナップを広げていく」「量産する」というよりは、一点ものの絵画みたいな感じで、一個ずつ「作品としての香り」みたいなものを作っていきたいなと思っています。

また、SODEというブランドはまだ始まって間もないので、いろんな方々に知っていただきたいなと思っています。

■POP UPでの様子

4月末にOPEN NAKAMEGUROで開催をしたPOP UP「Lupinus」にも出店してくださった「SODE」さん。
今回のブランドインタビューではその様子も一部お届けします。

まず目に留まるのはまるで寝室のような素敵なディスプレイ。
「こんな情景の香りを作ろう」というところから、香りのアイデアが生まれるという湖山さん。3つのプロダクトのそれぞれの情景や物語から連想される言葉で表現されたカードも。

また、調香のワークショップも開催していただきました。

■POPAP編集部より

私も湖山さんのワークショップで人生初の調香に挑戦してみたのですが、作る過程がとても楽しく、なにより出来上がった香りがとても気に入りました。それからは自分で作ったリネンウォーターを毎日寝る前に寝具に吹きかけています。

日本的かつ詩的な感性を持ち合わせ、独自の視点で香りを解釈、
一点もののアートピースのように丁寧に香りの世界観を作り上げる湖山さん。
「SODE」というブランドを通し、今後はどんな情景を私たちに見せてくれるのでしょうか。今後の活動も楽しみです。

■Perfumer

湖山友希

東京大学大学院農学生命科学研究科を卒業後、国内大手香料会社にて香りの研究に携わる。2022年に調香師として独立。寝具専用のリネンウォーターブランド「SODE」をスタート。アトリエhotoriオーナー。ATELIERS AROMES & PARFUMS PARIS認定講師。JAA認定アロマコーディネーター。

Editor POPAP