金継ぎに着目し廃棄物に新たな機能や価値を継ぐプロジェクト『アップサイクルの可能性展』、横浜みなとみらいにて4月4日(火)より開始。
世界初!壊れた器や傘に温冷機能や振動機能を加えたアップサイクル。
テクノロジーを起点とした社会課題の解決やあたらしい表現開発を実践するDentsu Lab Tokyoは、廃棄物との向き合い方を変えるためのプロジェクト「UP-CYCLING POSSIBILITY」を始動。捨てられたモノや、壊れたモノに、伝統と最新のテクノロジーとクリエイティビティを足すことで新たな機能と価値を付与し、廃棄の概念を変え、「未来のアップサイクル」の可能性を探ります。
これまで脳波で動く猫耳「necomimi」など様々なプロダクトを発表してきた なかのかな 主導の新プロジェクト「UP-CYCLING POSSIBILITY」で生み出された器5点、傘1点、計6点のプロダクトを、4月4日(火)から横浜みなとみらいにある資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)内 2階S/PARK MuseumのFUTURE ZONEにて開催する「アップサイクルの可能性展UP-CYCLING POSSIBILITY」にて展示いたします。場内では、独自のカードゲームを活用し、来場者がアップサイクルによる新たなアイデアを生み出す参加型コーナーも設置。「未来のアップサイクル」を考えるきっかけを提供します。
■開催概要
● 開催期間:2023年4月4日(火)~4月22日(土)、5月15日(月)~6月3日(土)
● 開催時間:11:00〜18:00 定休日 日曜
● 開催場所:資⽣堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK)2階 S/PARK Museum FUTURE ZONE
● 開催場所:〒220-8559 神奈川県横浜市西区高島1丁目2-11
みなとみらい線「新高島」駅 1・2番出口すぐ
● 公式サイト: https://spark.shiseido.co.jp/
■ UP-CYCLING POSSIBILITY始動経緯
2020年12月に週刊科学ジャーナル「Nature」で、人が生み出した人工物の総重量が約1兆1,000億tに達し、地球上の生物の総重量を上回ったと推測される研究論文が発表※1されました。私たち人類は、新しくなにかを作ることだけが、未来に繋がるのではないという時代に差し掛かっています。
UP-CYCLING POSSIBILITYは、そんな時代の中で、グラスを割ってしまったとき、傘が折れてしまったとき、不用になった家財道具が捨てられていくときに感じる罪悪感と向き合うことで生まれたプロジェクトです。廃棄される予定のプロダクトに新たな可能性を組み合わせ、新しく作らずに新しいことを生み出すために始動しました。
開発では大阪ヒートクール株式会社 代表取締役 伊庭野 健造さん(大阪大学 工学研究科 電気電子情報通信工学専攻 助教)、同取締役 伊藤 雄一さん(青山学院大学 理工学部情報テクノロジー学科 教授)と共に共同研究を進め、電流の方向を変えることで温度をコントロールすることができる性質をもつペルチェ素子を活用し、フレキシブルペルチェパーツを制作したことで、くちあたりや感触の変化が可能になり、廃棄物を「修復」ではなく「進化」させるプロジェクトに昇華させることができました。
※1:2020年12月9日発売号「Nature」論文(https://www.nature.com/articles/s41586-020-3010-5)
■ UP-CYCLING POSSIBILITYのユニークポイント
1. 日本の伝統的なアップサイクル技法“金継ぎ”に着目
欠けたり割れたりした器を漆で接着し、修復跡を金粉や色漆で装飾するのが金継ぎです。装飾された割れ跡は、ユニークで美しい模様となり、傷が”新たな価値”に生まれ変わります。この作業によって勇気づけられる、癒されるとしてパンデミック中に世界的に注目されました。器の欠けが大きい場合には、呼び継ぎという技法で全く別の器の破片で埋めることもあります。今回は、この呼び継ぎの考え方で壊れたものに新しい機能を継ぐことができないかと考えました。
2. 欠けたパーツに温冷、振動などの最新テクノロジーで新しい機能を追加
新しい機能を継ぐ過程では、壊れる前と同様の姿に戻すのではなく、電流を流すことで温冷が変わるペルチェ素子や、傾き回数によって色変化するLEDやセンサ、振動パーツなどを加え、くちあたりの変化を楽しむなどの新しい機能を器に加えました。これにより新しい食体験を生み出すことを目指しました。
3. α世代も楽しく参加できる「アップサイクル発明ゲーム」キットを開発
アップサイクルを自分ごととして考えるきっかけになる「アップサイクル発明ゲーム」キットを開発。「こわれたモノカード」と「パワーアップカード」を組み合わせて、自分オリジナルの「発明品カード」を作る体験を通して、モノとの向き合い方を考えます。
■ 開発プロダクトの紹介
第1弾:くちあたりの温度が変化する器「TSU→GI CUP “TEMP"」
フレキシブルペルチェパーツを用いて、割れた茶器やグラスをくちあたりの温度変化を楽しめる器にアップサイクル。器に合わせて独自開発したデザインヒートシンクを組み合わせることで、見た目にも新鮮さが加わります。なお、共同研究を進める伊藤研究室の食器の温度による味覚や食体験への影響の研究によると、下唇を含む口腔内への温度提示によって「甘味」の感じ方、「のどごし」などの食体験が変化することが明らかになっています。※2
第2弾:くちあたりの感触が変化する器「TSU→GI CUP “VIBE"」
ティーカップの割れた部分に振動するパーツを継ぐことで、くちあたりの感触の変化を楽しめる器にアップサイクル。心臓のドキドキが伝わるような振動パターンや、大怪獣が近づいてくるシーンのような揺れる水面などを楽しむことができます。
第3弾:温冷が変化する皿「TSU→GI PLATE “TEMP"」
割れたお皿をスマートフォンでスキャンしたデータから3Dモデルデータを制作、欠けた部分をステンレスパーツに置き換えました。このお皿を、ペルチェ素子を仕込んだランチョンプレートに乗せることで、「お刺身と天ぷら」、「サラダとミートパイ」など温かいものと冷たいものを同時に盛りつけることができます。忙しい毎日の中で割れてしまったお皿が、ゆったりした時間を楽しむためのお皿に生まれ変わりました。
第4弾:光る傘「TSU→GI UMBRELLA “GLOW”」
傘はよく骨が折れてしまい、壊れたら廃棄されてしまうものの代表格です。傘の骨を継ぐキットはすでに販売されていますが、機能性を足すことで直す行為がわくわくするものに変えられないかと考えました。そこで、折れてしまった骨の部分を、LEDライトの棒に継ぎ替えてみました。夜道を歩くときにも明るい傘にアップサイクルされました。
※2:上堀まい,伊藤弘大,藤田和之,伊藤雄一:口腔内への温度提示と食品の温度が食体験と味覚に与える影響,感性工学会論文誌(https://x-lab.team/heat-tech-for-food/)
<本プロジェクトのコラボレーター>
・金継監修/技術協力:株式会社つぐつぐ
・制作協力:中野梢
・共同研究(温冷感):大阪ヒートクール株式会社、青山学院大学 (伊藤雄一,上堀まい)
■本プロジェクトの未来について
本プロジェクトは、より多様な廃棄物の可能性を広げることを目指した取り組みを続け、モノが壊れた時の向き合い方を変える視点を提供していくことで、人工物を新しく生み出すのではなく、いまあるものを新しくする意識が生活の中に浸透する世界を作りたいと考えています。
例えば、壊れた部分をスマートフォンなどでスキャンをし、機能を選択して注文すると、サイズの合った再生素材の機能性パーツが届けられる。そのパーツを、自宅やカフェなどで、壊れたモノに繋ぎ合わせて、蘇らせることができるような未来です。私たちは、モノに新しい価値を与える作業を通して、人と地球を癒すことができる世界を目指しています。
今後は、さらに様々なコラボレーターとの共創により、アップサイクルの可能性を広げていきたいと考えています。
■Dentsu Lab Tokyo Researcher/Creative Technologist なかのかな コメント
プロジェクトを準備している最中に、「傘が折れちゃったー!」と叫びながら子どもが家に帰ってきました。いつもであれば小言を言ってしまうところですが、「折れちゃったのかー。」と受け取りながら「どんな直し方しようかな」と少しうきうきしている自分がいて、びっくりしました。モノを大切にすることは大前提としてありながらも、壊したときに、捨てる前に、このモノをどうしちゃおうかなと考える回路ができると、世界の見え方が少しだけ変わります。本プロジェクトに興味を持っていただいたみなさまにも、UP-CYCLING POSSIBILITYを一緒に考えていただければ幸いです。
■ Dentsu Lab Tokyoについて
Dentsu Lab Tokyo(デンツウラボトウキョー)は、研究・企画・開発が一体となったクリエーティブのR&D組織です。「PLAYFUL SOLUTION」「おもいもよらない」をフィロソフィーとしながら、デジタルテクノロジーとアイデアによって、人の心を動かす表現開発や、いま世の中が求める社会の課題解決を実践しています。
https://dentsulab.tokyo/