【イベントレポート】57名のアーティストが描く都市とアートの共振「Synchronicity」

【イベントレポート】56名のアーティストが描く都市とアートの共振「Synchronicity」

2025年1月25日・26日の2日間、東急プラザ銀座6階にて、現代アートイベント「Synchronicity」が開催されました。

会場は総ガラス張りの窓に囲まれ、銀座の街と一体化したような開放的な空間。さらに、約1,500平方メートルの広大なフロアに仕切りはなく、まるで都市そのものを表現する舞台のよう。パフォーマンス、音楽、彫刻、立体、平面など、多様なジャンルのアーティスト・パフォーマー57名が参加。自由な表現が交差する総合芸術空間となりました。

Keisuke Sugawara 《PV.04-101》2025

予測不可能な“ライブ感”

「Synchronicity」の最大の特徴は、予測不能なライブ感です。
フロアマップやタイムテーブルの予告はなく、来場者はその場で作品やアーティストと出会うことになります。

偶然とも必然とも言える出会いが生まれ、自身もインスタレーションの一部として空間に溶け込んでいく——まさに、都市におけるリアルな生活と自己の関係性を体感できました。


作品紹介(一部)

柴田まお 《Blue》2022

無機質な空間で異色の存在を放つ、巨大な青い造形物。ブルーバックを利用したクロマキー合成をリアルタイムで行い、物理空間とデジタル空間を交差させる独創的な試みだ。

カメラの前を人々が通り過ぎると、モニター上では現実とは異なる映像が映し出される。そこでは、青い造形物が消え去ることで、不在の中に新たな存在が立ち現れるような視覚的錯覚が生まれる。作品は、COVID-19による社会変化を背景に、物理的な距離や対面の制約がもたらしたコミュニケーションの変容をテーマとしている。

このインスタレーションの魅力は、鑑賞者自身が作品の一部となり、リアルとデジタル、実像と虚像の間を行き来する体験にある。画面越しでは見えないが、実際に会場に足を運ぶことでのみ体感できる「存在の揺らぎ」は、デジタル社会における私たちの立ち位置を問いかける。

作品を通して、柴田氏は「存在するもの」と「消えゆくもの」の境界を再考させる。デジタル技術が進化し、オンライン上でのやり取りが主流となる中で、私たちはどのように「リアル」を捉え直すのか。本作は、そんな現代ならではの視点を提示している。

酒井直之 《Dance Well》2025 : ダンス芸術活動、中島 崇 《unravel》2025 : インスタレーション作品

酒井直之 《Dance Well》2025 について

静謐な空間で人々が自由に身体を動かす。そこにあるのは、リハビリとしてのダンスではなく、アートとしてのダンス。その瞬間ごとの感覚に身を委ねることで生まれる、個々の表現の豊かさ。これこそが、ダンス・ウェルの魅力だ。

パーキンソン病と共に生きる方々を主な対象としながらも、子どもから大人まで年齢や経験を問わず、誰もが参加できる芸術活動である。その最大の特徴は、ダンス技術の習得やリハビリを目的とせず、芸術表現としてのダンスを追求している点にある。

アート作品に囲まれながら、参加者は身体と心を解放し、それぞれの表現を生み出していく。そこでは、正解のないダンスが生まれ、動きのひとつひとつに多様な価値が見出される。

「ウェル(Well)」には「調子が良い」だけでなく、「源泉」という意味もあるという。一人ひとりが持つ創造性の源を見つけ、表現する喜びを共有する場として、ダンス・ウェルは新たな可能性を提示している。芸術を通じて、身体と心のつながりを再発見するこの活動は、今後も多くの人々にとって特別な体験となるに違いない。

豊田ゆり佳 《There is a world of difference between knowing and doing》2024

この作品は、知識と行動の間にある決定的な隔たり、つまり「知っていること」と「実際に生きること」の間に広がる深い溝を浮かび上がらせる。作品タイトルにもなっている「There is a world of difference between knowing and doing(知ることと行動することの間には、世界がひっくり返るほどの違いがある)」という言葉は、日常の中で見落としがちな現実を突きつけるものだ。現代社会の不安定さや混沌とした感覚、不確実性に満ちた日々から何を知りどう生きるのか、パフォーマンスを通じて観る者自身にも向けられる。

本作を前にしたとき、「知る」ことの無力さを思い知らされる。ニュースや本を通して世界を理解しているつもりでも、それが本当の意味で“経験”になっているのかという疑問が湧く。たとえば、遠い国で起こる悲劇を知ることと、それを目の前で体験することはまったく違う。私たちは知識に溺れ、実感を伴わないまま「わかったつもり」になっているのではないか。
この作品は、その「わかったつもり」を揺さぶり、私たちに行動や実感を促す装置のように機能している。それは単なるパフォーマンスではなく、一つの問いかけであり、観る者の内側で静かに反響し続ける何かだ。

樋笠理子、樋笠理子 《Resonant》2025 :パフォーマンス

中島 崇 《unravel》2025について

本作品の素材として使われているのは、梱包材──人を保護するためのもの。しかし、それを強く締め付ければ束縛にもなる。守ることと縛ること、相反する二つの性質が共存するからこそ、その狭間にある曖昧な領域が作品としての深みを生む。   本作のタイトル「unravel」は、「ほどける」「解明する」という意味を持つ。中島は、ほどける前の「うねり」や「絡まり」にこそ重要な意味があると考える。ほどけることが目的ではなく、絡まりがあるからこそ、それがほどける瞬間に価値が生まれる。  

展示空間全体に広がるその波は、まるで「強磁性」のような力を持ち、見る者を引き寄せる。初めは無秩序に思えた空間が、ある瞬間にふと「つながった」と感じる。その気づきこそが、本作が提供する「シンクロニシティ」の体験なのだろう。  

まるで雪山にいるかのような、艶のある白い光が透けるインスタレーションの中で、私たちは社会の中にある絡まりや、その中で生まれるケアの可能性について、改めて思いを巡らせることになる。

古川実季 《もうひとつのことば》2025

都市の喧騒の中、静かに向かい合う二人。その間には、布が二枚。そして、一本の糸。互いの姿を縫いながら、言葉以外の方法で対話を試みる。
この作品は、他者との「隔たり」に焦点を当てたインスタレーションである。異なる背景を持つ人々が交わるとき、そこにはさまざまな壁が生じる。言語、文化、国籍、価値観、そして物理的な距離。それはときに誤解を生み、コミュニケーションを難しくする。しかし、隔たりは必ずしもネガティブなものなのだろうか?

「隔たりは悪いものなのか?」という問いを投げかける本作。しかし、完全に隔たりのない状態はあり得るのだろうか? 人と人の間には、常に何かがある。その「間」をどう受け止め、どう紡いでいくのか。本作は、そんな問いに向き合うきっかけを与えてくれる作品である。

Liu Ten《CounterConcept -Ⅳ fault line》2025

これは、対を成す概念の“断層”を描き出しながら、その間に生じる共鳴を探る試みである。本作では、個と全、対立と調和、そして一見相反するもの同士がどのように関係し、存在し得るのかを問いかけているように感じた。

「右と左」「前と後ろ」「二つで一つ」──これらの関係性を可視化することで、作品は単なる視覚的表現を超え、概念的な対話を生み出している。鑑賞者として作品と向き合うと、まるで断層の狭間に立たされているような感覚に陥る。二つのものは決して完全に一致するわけではないが、それでも互いを必要とし、一つの存在として成り立っている。この「対となすものを見つける」行為そのものが、私たちの生きる世界に対するメタファーにも思えた。

特に興味深いのは、100色以上の白の塗料の中から選び抜かれた、最も光の反射率が高い白の使用である。この白は単なる色ではなく、都市の中で変化しながらも白として存在し続ける“受容の色”のように感じた。作品における「受容体」というテーマと重なり、光や空間、さらには鑑賞者の感情までも受け止めながら、絶えず変化し続ける。静的でありながらも、時間や環境とともに異なる表情を見せる点が印象的だった。概念の狭間に潜む共鳴を描き出しながら、鑑賞者自身の存在のあり方を問い直す作品であった。


田附希恵《drowing:uneune》2025

田附希恵《drowing:uneune》2025

"うねうね"とした線そのものに身を任せる。その行為は、畑の畝のように、無意識のうちに生まれるリズムや流れを可視化する。  

鋼材を使った彫刻は、線の力強さを物理的に示す。鋼材の持つ硬質な質感と、炎を当てることで現れる青みがかった輝きは時間とともに変容していく。うねる線が生み出すリズムは、見る者の身体感覚に訴えかけ、空間の中で静かに響き合う。

物理的な空間に"生きる"存在として佇む彫刻は、人間と共に過ごすものとして機能する。それはただのオブジェではなく、環境の一部であり生活の一端を担うものとなるのかもしれない。


中島啓之介 《紐づく》2025

中島啓之介 《紐づく》2025

「紐づく」は、無作為に持ち込まれたアートブックを通じて、参加者が自身の記憶や経験との関連性を見出し、新たな発想を生み出す読書エリアだ。現代では、情報検索の手段としてアルゴリズムが主流になり、関連情報が自動的に提示される。しかし、本企画では、その流れとは逆行し、偶然の出会いを大切にしている。  

気になったページをコピーし、自分のデバイスに保存されたデータと組み合わせる──このプロセスは、単なる知識の受動的な取得ではなく、意識的な解釈と創造を促す。例えば、本の内容と自分の過去の経験を照らし合わせたとき、新たな視点や独自の解釈が生まれる。「本にはこう書かれているが、自分の経験からするとこういう解釈もできる」──この思考のカーブが、新しいアイデアの発端となる。  

読書もまた同じである。単に知識を得るだけではなく、そこからどんな関係性を見出し、どのように解釈し、紐づけるか。そのプロセス自体が、新たな創造へとつながっていくのだろう。

がらんどう 《ホットハウス》2025

「がらんどう」の作品は、ダンスを超えた"存在"そのものを舞台に立たせる。振付や演出の枠を超え、ダンサー自身の身体と意識に委ねることで、表現の本質を探る試みだ。  
一般的な振付や即興とは異なり、「がらんどう」のアプローチはその場の空気やダンサー自身のオーラを大切にしながら、身体が"動きたくなる"瞬間を待つ。  

この試みは、「ホットハウス」という新作のコンセプトとも共鳴する。地球温暖化というテーマを直接的に扱うのではなく、"地球が熱い部屋となり、人の所在を遠ざける"というファンタジー的な視点を取り入れることで、観客に問いを投げかける。環境の変化によって文明が無力になったとき、人は何を拠り所にするのか——それは、偶然や奇跡のような「シンクロニシティ」なのかもしれない。 


Keisuke Sugawara , Tatsumi Ryusui , Miho Yajima, Mizuki Kawamura《Unobtrusive Mapping》2025

《Unobtrusive Mapping》では、4つのスピーカーを配置し、銀座の異なるエリアを巡るような体験が提供された。監督を務めたのは、東京生まれでベルリン在住の身体表現者兼振付家、Keisuke Sugawara氏。

「都市の視覚と音の交わり」をテーマに視覚と聴覚の新たな感覚を楽しむ。
本コーナーの魅力は、Miho Yajima氏が撮影した銀座の風景写真と、ベルリン在住の音楽家Tatsumi Ryusui氏が現地で採取した音の融合。日常的な都市の風景や音がいかに新しい解釈を生むかを体感することができる。

さらに、タキコウ縫製提供のビーズクッションが設置されていることにより自然に人が集まる場に。銀座の街の音が程よく流れる環境は、人々が心地よさを感じながら交流する雰囲気を作り出した。



親子スペース・託児ブース・センサリードーム

そだてるはたらくプロジェクト(株式会社Louvy)協力の元、0〜6歳のお子さまを預けられる託児ブースと、センサリードームが設置されました。保育士が常駐し、安全に配慮した環境の中でお子さまを見守ることで、大人も安心してアートを楽しむことができます。

ドーム型の落ち着ける空間は光や音の刺激を抑えた設計で、静かにリラックスしたい方も安心して過ごせる場所になっています。

そだてるはたらくプロジェクトはこのようなブースを通じて「そだてること」と「はたらくこと」が当たり前に両立できるような働き方の多様化を目指して、「社会でそだてる」取り組みを推進しています。

Scent to Sound Workshop

音楽と楽しむお香プロダクトの立ち上げプロジェクト。精油の香りから生まれた言葉を元に、楽曲制作をします。

会場では3種類の香りをテイスティングし、感想をシェア。自然の雄大さを感じるような香りから生まれる音楽に注目です。

スペース運営:合同会社 yuhilo MANAKANA INCENSE

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アーティストや来場者、さらには現代アート業界を支えるすべての参画者が、新たな表現の可能性を探る場となった「Synchronicity」。

多様なアートが交錯する空間は、時代の変化と響き合いながら、アートの敷居を下げ、よりオープンで融和的な対話を生み出していたように感じます。銀座という街と作品、そして人との間に生まれる「共振」は、まさに本イベントの核となる要素であり、アートが持つ社会的な広がりと可能性を再認識させてくれるものでした。

アートの未来は、こうした実験的な試みと、垣根を越えた共創の中にこそあるのかもしれません。



■参加アーティスト

柴田まお Sculptor
田附希恵 Sculptor
古川実季 Installation Artist
髙瑞貴 Performance Artist
堀之内 真平 Performer
Keisuke Sugawara Choreographer
中村 瑞乃 Dancer
福永将也 Dance Artist
酒井直之 Dancer / Choreographer
山岸詩音 Dancer / Choreographer
Ami Matsumura Dancer / Choreographer
豊田ゆり佳 Dance Artist / Choreographer
がらんどう Dance Artist, Performance Artist
岩田奈津季 Dancer / Choreographer, Performance Artist
樋笠理子 Dancer / Choreographer, Performance Artist
中島啓之介 Space Designer
rina ohmoto Photographer
矢島美保 Photographer
中野優太 Photographer
Tanaka Kaname Visual Artist
Liu Ten Contemporary Artist
ii eat Food creator
Tatsumi Ryusui Musician
Walm Musician
宮崎栞奈 Performance Artist
今宿未悠 Performance Artist, poet
河村実月 Poet
中島 崇 Contemporary Artist



■監修アーティスト

KEISUKE SUGAWARA

東京生まれ、ベルリン在住の身体表現者兼振付家。アラスカで舞台芸術を学び、2011年よりダンサーとして活動を開始。2017年よりドイツに活動拠点を移す。以降振付家として、ドイツ・デンマーク間で精力的な創作活動を行う。 2019年に、第6回エルビル国際演劇祭(イラク)へ招致される。2021年にFonds Darstellende Künste(ドイツ連邦政府文化振興基金)の助成対象アーティストに選出され、同年EU・ジャパンフェスト日本委員会及び、 デンマーク王国大使館協力の下『空谷の跫音』を東京で発表。2023年には、Japonijos dienos Kaune WA(リトアニア)のゲスト・アーティストに選出され、フェスティバル招致作品として『(un)gehört』を発表。2024年に欧州文化首都#Tartu2024(エストニア)の公式プログラムで『Peal kiri peal』を発表。