フォトレポート「おさなごころを、きみに」in 東京都現代美術館

おさなごころを問い直す体験型企画「おさなごころを、きみに」が東京都現代美術館で開催

7/18K 作品上映「MADD.作品集」、GRINDER-MAN、安藤英由樹、藤木淳、のらもじ発見プロジェクト、錯視ブロックプロジェクト、ジュスティーヌ・エマール、AR三兄弟らが参加

GRINDER-MAN 《HERO HEROINE》2018  ※本展で唯一動画撮影が可能

GRINDER-MAN 《HERO HEROINE》2018 ※本展で唯一動画撮影が可能

2020年7月18日より、おさなごころを問い直す体験型企画「おさなごころを、きみに」が東京都現代美術館で開催されています。一足先に企画展の取材をさせていただくことができたので、フォトレポートという形で紹介させていただきます。企画展の概要については7/2に概要記事を公開させていたので、そちらをご参照いただけますと幸いです。

「おさなごころを、きみに」in 東京都現代美術館 — POPAP (ポパップ)ポップアップ情報メディア

広げて読みたくなるガイドマップを受け取って

受付で配布されるガイドマップは、その機能にとどまらず誰でも美術館を楽しめるノウハウ集になっている。小さなお子さんとアートを楽しむ方法からちょっとしたトラブルの対応まで、汎用的な「鑑賞のポイント」としてまとまっている。

そんなガイドマップを携えエスカレーターを登ると、彫刻家 名和晃平さんの《PixCell-Bambi #10》が見えてくる。小鹿が佇む景観は幻影的で、全体として自然と認識することもできる。そんな美しい小鹿に魅了され続く展示は、吉岡徳仁さんの《ROSE》は薔薇を結晶に閉じ込めた作品である。クリスタルのような美しさの背景にある自然の力強さが印象的だった。これら作品のコントラストを楽しむ導入の中で、徐々に研ぎ澄まされていく身体を感じた。

順に、 名和晃平 《PixCell-Bambi #10》2014、 名和晃平 《PixCell-Bambi #3》2014、吉岡徳仁 《ROSE≫、 名和晃平 《PixCell-Bambi #3》2014 すべて東京都現代美術館蔵

いま触覚するということ

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本展の「いりぐち」を目の前にすると、アルコール消毒液が並んでいるコーナーが目に入る。東京都立の各美術館では再開に伴い検温をはじめとする感染症予防策が、徹底的に施されてきた。厳重な入り口の検査、ソーシャルディスタンシングや人気展示の入場規制、こういった対策が重なり展示に没入できる環境が整っている。消毒が日常になっているいま、展示室のいたるところに消毒液があることがノイズになることはない。外での体験に躊躇されている方も多いかもしれないが、安心して体験できる企画展になっている。

本展はインタラクティブな体験が目玉のひとつ、現下の状況で忘れかけていた触覚を回顧するプロセスが加わることで、より触覚に対する認識が鮮明になる、どこか気持ちがいい。現在の美術表現では視覚表現が多い一方、本展では触覚の面白さや重要性を思い出してくれる展示になっている。特に《A Day in their lives》で画面を操作した際のフィードバックは、日頃からスマートフォンのバイブレーションに慣れている私たちでも「はっとさせられる」ような強いフィードバックがある。事象に応じたレベルのフィードバックがあることで、画面越しであってもリアルを感覚できる可能性を示してくれるように思えた。

外にいながら、触覚そのものを思い出すかのような体験は特別なものだった。「触覚」「身体」「音と言葉」「忘却」「銀河」の空間をめぐる回遊は、人生の追体験のような構成になっている。

順に、藤木淳 渡邊淳司 安藤英由樹《A Day in their lives》2015、安藤英由樹 渡邊淳司 川口ゆい 坂倉杏介《心臓ピクニック》2010/2020、渡邊淳司 林阿希子 伊藤亜紗《手のひらで感じるテニス 同時翻訳》2019、同上、藤木淳《P055E5510N》2011

AR三兄弟《スポンジと運動》2020

AR三兄弟《スポンジと運動》2020

名前を受け取ってください

手相占いのように手を神秘的な光の輪にかざすと、次々と文字が画面に表示される。このスピードに圧倒される間もなく新しい名前が表示され、無防備ゆえにその名前を受け入れるのだ。こんな時代になったが、まだ命名の記憶・経験を持っている人は稀だろう。ニックネームのようなエイリアスつきの名前ではなく真に迫る受名体験、シンギュラリティの先取りなのかもしれない。

幸村 真佐男 《非語辞典 人名編》2011

幸村 真佐男 《非語辞典 人名編》2011

幸村 真佐男 《非語辞典 人名編》2011

幸村 真佐男 《非語辞典 人名編》2011

忘却のあと

パラボナアンテナの近くにはガジュマルなどの植物がテラリウムとしてルンバの上に鎮座している。《宇宙掃査機》は、なにか求めて彷徨い続ける、近くにあるルンバステーションではない何かを求めている、「忘却」の意味を再解釈するには十分だと思う。3m超の円盤に映像が投影されるインスタレーション《時花(トキハナ)》、《≪一家に1枚 宇宙図2020》»をみながら〈今の私たちと私〉を俯瞰してみるのもいいかもしれない。

森脇裕之 《宇宙掃査機》2020

森脇裕之 《宇宙掃査機》2020

森脇裕之 《時花 / トキハナ》2020

森脇裕之 《時花 / トキハナ》2020

入場時に《のらもじ発見プロジェクト》を見過ごしてしまった方は、帰り際に文字探しをしてみるといいかもしれない。ミュージアムショップでは本展に纏わるアイテムが多数展開されている。

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はじめての体験、幼心に体験していたかもしれない体験、カタルシスなんて重苦しく考えなくていい。メディアテクノロジーを駆使した芸術作品が「体験して良いですよ」のメッセージと共生している。優しさで包まれたような感じがした。

■展覧会概要

【おさなごころを、きみに】

会期 2020年7月18日(土)〜9月27日(日)

休館日 月曜日(8月10日、9月21日は開館)、8月11日、9月23日

開館時間 10:00〜18:00(展示室入場は閉館の 30分前まで)

観覧料 一般 1,300 円 / 大学生・専門学校生・65歳以上 1,000 円 / 中高生 800 円 / 小学生以下無料

会場 東京都現代美術館 企画展示室 3F

住所 東京都江東区三好4丁目1−1

企画公式サイト https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/Cherish-your-imagination/

主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館

共催 株式会社NHKエンタープライズ

特別協力 MADD. Committee/アストロデザイン株式会社

機材協力 シャープ株式会社、キヤノンマーケティングジャパン株式会社

協力 公益財団法人科学技術広報財団 /「一家に1枚宇宙図」制作委員会 / 一般財団法人 ニッシャ印刷文化振興財団 / 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA) / 株式会社ビデオリサーチ / ミネベアミツミ株式会社 / 株式会社アミューズ / 株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション

参加作家

名和晃平、吉岡徳仁、8K作品上映「MADD.作品集」、GRINDER-MAN、安藤英由樹、藤木淳、のらもじ発見プロジェクト、錯視ブロックプロジェクト、ジュスティーヌ・エマール、phono/graph、IDEAL COPY、CTG、幸村真佐男、森脇裕之、小阪淳、AR三兄弟、Rhizomatiks Research / ELEVENPLAY / MIKIKO / 真鍋大度 / 石橋素 / Kyle McDonald、渡邊淳司(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)、落合陽一 × 日本フィルプロジェクト(Visual: WOW) ほか