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【イベントレポート】51名のアーティストが描く都市とアートの共振「Synchronicity」

【イベントレポート】51名のアーティストが描く都市とアートの共振「Synchronicity」

2025年1月25日・26日の2日間、東急プラザ銀座6階ラウンジにて、現代アートイベント「Synchronicity」が開催されました。

会場は総ガラス張りの窓に囲まれ、銀座の街と一体化したような開放的な空間。さらに、約1,500平方メートルの広大なフロアに仕切りはなく、まるで都市そのものを表現する舞台のよう。パフォーマンス、音楽、彫刻、立体、平面など、多様なジャンルのアーティスト51名が参加。自由な表現が交差する総合芸術空間となりました。

予測不可能な“ライブ感”

「Synchronicity」の最大の特徴は、予測不能なライブ感です。
フロアマップやタイムテーブルの予告はなく、来場者はその場で作品やアーティストと出会うことになります。

偶然とも必然とも言える出会いが生まれ、自身もインスタレーションの一部として空間に溶け込んでいく——まさに、都市におけるリアルな生活と自己の関係性を体感できました。


作品紹介(一部)

《Blue》- 柴田まお

無機質な空間で異色の存在を放つ、巨大な青い造形物。ブルーバックを利用したクロマキー合成をリアルタイムで行い、物理空間とデジタル空間を交差させる独創的な試みだ。

カメラの前を人々が通り過ぎると、モニター上では現実とは異なる映像が映し出される。そこでは、青い造形物が消え去ることで、不在の中に新たな存在が立ち現れるような視覚的錯覚が生まれる。作品は、COVID-19による社会変化を背景に、物理的な距離や対面の制約がもたらしたコミュニケーションの変容をテーマとしている。

このインスタレーションの魅力は、鑑賞者自身が作品の一部となり、リアルとデジタル、実像と虚像の間を行き来する体験にある。画面越しでは見えないが、実際に会場に足を運ぶことでのみ体感できる「存在の揺らぎ」は、デジタル社会における私たちの立ち位置を問いかける。

作品を通して、柴田氏は「存在するもの」と「消えゆくもの」の境界を再考させる。デジタル技術が進化し、オンライン上でのやり取りが主流となる中で、私たちはどのように「リアル」を捉え直すのか。本作は、そんな現代ならではの視点を提示している。

《Dance Well》- 酒井直之

静謐な空間で人々が自由に身体を動かす。そこにあるのは、リハビリとしてのダンスではなく、アートとしてのダンス。その瞬間ごとの感覚に身を委ねることで生まれる、個々の表現の豊かさ。これこそが、ダンス・ウェルの魅力だ。

パーキンソン病と共に生きる方々を主な対象としながらも、子どもから大人まで年齢や経験を問わず、誰もが参加できる芸術活動である。その最大の特徴は、ダンス技術の習得やリハビリを目的とせず、芸術表現としてのダンスを追求している点にある。

アート作品に囲まれながら、参加者は身体と心を解放し、それぞれの表現を生み出していく。そこでは、正解のないダンスが生まれ、動きのひとつひとつに多様な価値が見出される。

「ウェル(Well)」には「調子が良い」だけでなく、「源泉」という意味もあるという。一人ひとりが持つ創造性の源を見つけ、表現する喜びを共有する場として、ダンス・ウェルは新たな可能性を提示している。芸術を通じて、身体と心のつながりを再発見するこの活動は、今後も多くの人々にとって特別な体験となるに違いない。

《もうひとつのことば》- 古川実季

都市の喧騒の中、静かに向かい合う二人。その間には、布が二枚。そして、一本の糸。互いの姿を縫いながら、言葉以外の方法で対話を試みる。
この作品は、他者との「隔たり」に焦点を当てたインスタレーションである。異なる背景を持つ人々が交わるとき、そこにはさまざまな壁が生じる。言語、文化、国籍、価値観、そして物理的な距離。それはときに誤解を生み、コミュニケーションを難しくする。しかし、隔たりは必ずしもネガティブなものなのだろうか?

「隔たりは悪いものなのか?」という問いを投げかける本作。しかし、完全に隔たりのない状態はあり得るのだろうか? 人と人の間には、常に何かがある。その「間」をどう受け止め、どう紡いでいくのか。本作は、そんな問いに向き合うきっかけを与えてくれる作品である。


《Mapping区画》- Keisuke Sugawara , Tatsumi Ryusui , Miho Yajima

「Mapping区画」では、4つのスピーカーを配置し、銀座の異なるエリアを巡るような体験が提供された。監督を務めたのは、東京生まれでベルリン在住の身体表現者兼振付家、Keisuke Sugawara氏。

「都市の視覚と音の交わり」をテーマに視覚と聴覚の新たな感覚を楽しむ。
本コーナーの魅力は、Miho Yajima氏が撮影した銀座の風景写真と、ベルリン在住の音楽家Tatsumi Ryusui氏が現地で採取した音の融合。日常的な都市の風景や音がいかに新しい解釈を生むかを体感することができる。

さらに、タキコウ縫製提供のビーズクッションが設置されていることにより自然に人が集まる場に。銀座の街の音が程よく流れる環境は、人々が心地よさを感じながら交流する雰囲気を作り出した。

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アーティストや来場者、さらには現代アート業界を支えるすべての参画者が、新たな表現の可能性を探る場となった「Synchronicity」。

多様なアートが交錯する空間は、時代の変化と響き合いながら、アートの敷居を下げ、よりオープンで融和的な対話を生み出していたように感じます。銀座という街と作品、そして人との間に生まれる「共振」は、まさに本イベントの核となる要素であり、アートが持つ社会的な広がりと可能性を再認識させてくれるものでした。

アートの未来は、こうした実験的な試みと、垣根を越えた共創の中にこそあるのかもしれません。