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世界の現代アートシーンと日本の現状や課題 森美術館新館長:片岡真実さん

2020年1月1日、森美術館の新館長に片岡真実さんが就任された。片岡真実さんはニッセイ基礎研究所都市開発部研究員、東京オペラシティアートギャラリー・チーフキュレーターを経て、2003年より森美術館に所属。シニア・キュレーター、チーフ・キュレーター、副館長を経て新館長に就任する運びとなった。本記事では、記者クラブ主催の片岡真実さん森美術館新館長就任会見の模様をお送りするとともに、世界の現代アートシーンと日本の現状や課題について触れる。

世界の現代アートの潮流

そもそも現代アートとはなんだろうか。現代アートの始まりとして1917年に発表されたデュシャンによる《泉》を連想される方も多いはずだが、最近では1989年以降を現代アートとする見方もある。ただ明確にいえることは、1990年頃を境にして現代アートの文脈が変わったことである。

1980年代まではアートの中心といえば欧米だったが、1990年代からは各地域がそれぞれの文脈でモダニズムを発信するようになった。世界どこでも現代美術館、ビエンナーレ、トリエンナーレが無数に発生し、アート職に就いている者でさえ全てを訪問することができなくなってしまっている。また、現代アーティストの作品を理解するためには、その多様な背景を紐解く必要があり、自ずと世界の歴史、地理、政治...を学ぶことになる。 これが現代アートの現在と考えられる。

現代アート市場の動向

グローバル・アート・セールによると、2018年にはマーケットは約7.4兆円にまで拡大し、依然として米国がトップの44%のマーケットになっている。他にもミレニアル世代の積極的な市場参画が顕著となっている。現代アートのオークション市場では部屋に飾れる絵画が68%を閉めており、体ごと作品の世界観に入れ込めるような大きなインスタレーションの取引は少ない。そんな葛藤も紹介された。

他のトレンドとして、アメリカでは美術館や展示を成立させている資金に対して注目が集まっている。どのようにして富裕層や企業が収益を得ているのか。そういった体制面での透明性も求められるようになっている。

日本の現代アートの希薄化をどう捉えるのか

世界各地で 現代アートが発生・拡大していくなか、世界に通じる日本のアーティストは多数存在するにも関わらず、日本の存在感が相対的に希薄化している。日本のアートをボトムアップしていく必要があり、 政府・各省庁でも「国際広報・情報発信のためのウェブサイト構築」「国内美術館の所蔵作品データベースを英語化して情報発信 」といった取り組みを水面下で進めてきた。論点の整理を参照いただきたい。

これから森美術館が果たしていく役割

日本でも、大原美術館、セゾン美術館といった私立の美術館がアートの発展に貢献してきた。なかでも森美術館の場合は、街づくりを実現の象徴として設立された。不動産を主としている企業が「アート&ライフ...生活の中にアートをいれることで、いかにエネルギーに溢れる街を作れるか」を軸にしている。

森美術館新館長は次のビジョンを掲げた。

・国際的な現代美術館としての立ち位置を維持しつつ、アジア太平洋の現代アートについて積極的に調査研究、展示活動を行う
・グローバルな言語としての現代アートをローカルなコミュニティに接続する
・体験とストーリーの重視
・ダイバーシティの重視。未知の世界に出会い、異なる価値観や文脈への理解を深め、共に楽しむ場へ
・各地の美術館、ビエンナーレ、様々な教育機関との建設的なパートナーシップ

街の歴史や記憶としての現代アートを体験やストーリーを通して届ける取り組みを続けていく。またひとつの美術館でできることは限られていることから、各地の美術館、ビエンナーレ、様々な分野の教育機関と コラボレーションしていく。さらに、 アジアの美術館とパートナーシップを結び、 美術を共有していくことで現代アートの発展に繋がる。

最後に選んだ言葉は《八不中道》

最後に記者クラブ恒例のサインが公開された。片岡真実さん選んだ言葉は《八不中道》。空の理論に由来がある言葉である。世界が多様で相反するものが同時に存在しているなかで中央はない。昨今の世界情勢をみていても、これまで是とされるものが変化している。「複雑な状況に対して最もバランスを取れる場所を探したい」と語った。